商店街や幹線道路を歩いていると、飲食店が数軒並んでいたり、自動車販売店が数キロにわたって固まって出店していたりする光景をよく目にします。「近くに同業がいると客を取られるのでは」と不安になる経営者の方は多いのですが、実際のところどうなのでしょうか。今回は経済学・経営学の研究をもとに整理してみます。
飲食店の近接立地は本当に双方にメリットがあるのか
実はこの問いに、答えは一つではありません。
昔ながらの経済理論(Hotelling の立地理論など)では「お店同士は離れた方がいい」と考えられてきました。近くに同業がいると値下げ合戦になりやすい、というシンプルな理由です。ところが実際の街を調べたデータでは、むしろ同業が集まっている場所の方が多いという結果が繰り返し出ています(小売集積に関する経済学研究、Irmen and Thisse 1998、Netz and Taylor 2002)。理屈の上では離れた方が得なはずなのに、現実にはお店同士が寄り集まっている。ここに面白いギャップがあります。
飲食業に絞った調査(レストラン業態別の集積研究「To cluster or not to cluster」)では、業態によって結果が分かれることも分かっています。高価格帯の店か低価格帯の店か、駅前や繁華街のような人通りの多い場所にあるかどうかで、近くに同業がいることが有利に働くかどうかが変わるという内容です。コンビニを対象にした研究(Seong et al., 2022)では、近くに競合が増えるほど売上が伸びる一方、ある一定数を超えると逆に苦しくなるという、いわば「集まりすぎ注意」の境界線があることも報告されています。また米国の小売生存率に関する調査(Journal of Marketing Theory and Practice 掲載)では、集積のメリットは小規模な店や新しい店、所得水準の高いエリアで出やすく、大手チェーンや老舗、所得水準の低いエリアではむしろ集積が裏目に出ることもある、とされています。
つまり「近くに同業がいれば双方得をする」は常に正しいわけではなく、業種・価格帯・エリアの条件次第というのが実態です。一方で、ジャンルの異なる飲食店同士(例:ラーメン店の隣にカフェ)であれば直接の値下げ合戦にはなりにくく、「この通りに来ればいろいろ選べる」という一つの目的地としての魅力が生まれやすいと考えられます(異業種の近接効果は主にアパレル業態の研究から得られた知見のため、飲食店特有の実証データではない点には留意が必要です)。
自動車販売店が同じ通りに並ぶ理由
自動車販売店が同じ通りに集中する現象には「オートロウ(Auto Row)」という名前がついているほど、よく知られたパターンです。
車のような高い買い物をするとき、多くの人は1軒だけ見て決めるのではなく、何軒か回って比較したくなるものです。そのため、ディーラーが並んでいることは消費者にとって「一度に見て回れる」利便性になり、お店側にとっても、広告費をまとめて負担できるといったメリットが生まれます。
これを裏付ける研究として、Management Science 誌に掲載された「Consumer Search and Automobile Dealer Colocation」(2020年)があります。自動車のような高額商品は消費者が複数店舗を回って比較検討する「探索行動」を取るため、ディーラー同士が近くにあることで消費者の探索コストが下がり、集客につながるという分析です。これを裏付ける興味深いデータもあります。シカゴ大学ブース経営大学院の調査では、あるディーラーが1店舗閉店すると、その近くにあった別のディーラーの値上げ幅は、少し離れた場所にあるディーラーよりも小さかった(閉店店舗から10マイル以内は265ドルの値上げにとどまったのに対し、10〜20マイルでは1,034ドルの値上げ)という結果が出ています。近くのお店が減ると「ここに来ればいろいろ比較できる」という魅力自体が薄れ、値下げして客を呼び込まざるを得なくなるためだと分析されています。
中小企業の立地戦略への示唆
外食チェーンの事例として分かりやすいのが、弁当専門店オリジン弁当の出店戦略です。同社は新規出店の際、あえて大手コンビニの近くに店を構える戦略を取っていたと複数のビジネス系メディアで紹介されています(オリジン東秀の公式発表ではなく、業界でよく語られる逸話としての紹介である点はご留意ください)。コンビニは出店前に「この場所にどのくらい人が通るか、どのくらい売れそうか」を入念に調査した上で立地を決めます。つまり、その近くに出店すれば、自社で高いお金をかけて市場調査をしなくても、すでに調査済みの良い立地に相乗りできるという発想です。さらに、弁当ができあがるまでの待ち時間にコンビニで買い物ができる、コンビニ利用客がついでに弁当を買っていく、といった相乗効果も生まれ、双方にメリットのある関係になっていたようです。
ここまでの内容を踏まえると、地域の店舗経営者にとっての実践的なヒントは次のようになります。
- 比較検討されやすい商材(自動車、アパレルなど)は、同業が近くに集まることでメリットが出やすい
- 日常的な低価格帯の商材は値下げ合戦になりやすいため、同ジャンルでの密集出店は避けた方が無難
- 飲食店は、直接競合しない異なるジャンル同士が近くにあることで「選べるエリア」として認識され、双方に送客効果が生まれやすいと考えられる
- すでに集客力のある既存店の近くに出店することで、自ら市場調査コストをかけずに好立地を選ぶという発想も有効
- ただし集積のメリットには天井があり、店舗数が増えすぎると効果が薄れる、あるいは逆転する可能性がある点にも注意
出店エリアを検討する際は、「近くに何があるか」を単なる競合対策として捉えるだけでなく、集客導線としてどう活かせるかという視点で見てみることをおすすめします。
立地戦略でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

